【日本語訳】アシスティブテクノロジーを通して重複障害者の生活を向上させる

すべての障害者支援(医療・療育・教育や福祉工学など)に関わる人には必見の動画です。ロサンゼルス在住の山田香苗さんが中心になって制作しました。山田さんとは2017年の3月,ロサンゼルスに行った際にお会いしたことがありました。実子のマイケルさんが重複障害者です。このビデオには,山田さんがマイケルさんの幼いうちから,アシスティブテクノロジー(AT)を活用してきた経験が凝縮されています。

タイトルはズバリ Improving the Lives of Individuals with Complex Disabilities through Assistive Technology(アシスティブテクノロジーを通して重複障害者の生活を向上させる)。以下,山田さんのコメントです。

(山田さんのメールより)

障害者支援のリーダーシップトレーニングUSC-UCEDD*)で製作したビデオ教材です。アシスティブテクノロジーを使うことで重篤な人も健康や生活を向 上させることができるという内容で、私が訴えたかったのは周りの意識が前向きになれば変わるのだとい うことです。

ビデオではうちの和宗(Michael)と、かいくんともう一人Rettの女の子の例をあげて、 専門家のインタビューによって、いかにATが必要か、 役に立つのかを説明しています。最後に、 重度の障がいを持っていても社会に他の人たちに貢献できると言語療法士が伝え、さあ、私たちに何ができるか考えよう、 というメッセージを残しています。

山田香苗さんより

USC-UCEDD: USC University Center of Excellence in Developmental Disabilities at Children’s Hospital Los Angeles

以下に,3部構成のストーリーボード(山田さん提供)を掲載します。ビデオには日本語のナレーションはありませんので,日本語のストーリーボードと照らし合わせてご覧いただければと思います。重要な情報がたくさん散りばめられています!

(補足)には,参考情報や関連するサイトなども追記しました。

アシスティブテクノロジーを通して重複障害者の生活を向上させる

第1部 3人の障害者とAT

マイケル(0:04 – 2:58)

医者たちが口を揃えて言ったことは「彼が普通の生活を送れる可能性はゼロである」ということでした。これは私の息子,マイケル26歳です。2歳の時,プールの溺水事故で重度の脳障害を負いました。

知的な障害を含め,てんかんや四肢麻痺の障害となりました。そして,胃瘻チューブ・気管切開も。「彼は生涯植物状態で他になすすべはない」と言われたのです。

そのような状態でも3歳になると,法律により学校へ行けるようになりました。しかし,彼にとって学校で学ぶことは容易なものではありませんでした。

学校から言われたのは「彼のような障害のひどい生徒には学べるものがなく,コミュニケーションを教えるなど全く無駄である」ということでした。

(補足)

専門家が当事者やその家族を絶望させてはなりません。しかし,日本においても多くの当事者やその家族がその「洗礼」を受ける事態が発生しています。

テクノロジーは進歩しています。今は難しくても今後可能になることもたくさんあるのです。たとえば,20年前に生まれた重度障害の子どもがいるとします。現在,視線入力やタブレットでLINEをしている姿を,20年前に誰が想像できたでしょうか?20年前には,今でいう視線入力装置もiPadのようなタブレットもなかったわけです。LINEのような手軽なアプリも。

小学3年生の女の子でも視線入力でここまでできる!」では,人工呼吸器を付けたSMA1型の女の子が視線入力で学習やコミュニケーションに利用している例をあげています。世の中に支援機器があっても,支援者の問題で適用できない例で溢れているのが現状。これは人権侵害とも言えるのではないでしょうか?

私は自分でコミュニケーション用のスイッチを購入し,音楽を吹き込んだテープレコーダーにつなげ,音楽をつけたり消したりする練習をさせました。「スイッチを入れれば音楽が鳴る」という原因と結果のコンセプト(スイッチの因果関係)を学ばせるためです。

そして,マイケルは学校の教員にスイッチを使って何かができるということを証明し,やっとコミュニケーションの査定を受けることができました。学校に行き始めて9年が経っていました。彼は12歳でした。このようなスイッチをアシスティブテクノロジー,略してATと言います。

(補足)

病院や学校の専門家に対して,子どもの可能性を説得するのに苦労するのはアメリカも日本も同様のようです。本来はおかしなことです。専門家は,障害児に寄り添って可能性を強く信じなければなりません。

テクノロジーの進化により,「実はわかっている」ということが証明しやすくなってきましたが,これは根気強く関わってこそ。専門家による本当の支援は,これまでの常識だけにとらわれず,目の前の一個人の可能性を信じることからはじまります。

陽菜さんの意思伝達環境(SMA1型女児の場合)」では,スイッチを使いこなして3つの機器を同時使用している例をあげています。残念ながら,この環境の構築に支援学校は力及ばずだったようです。お母さまや周辺の支援者が彼女を信じて素晴らしい環境を作り上げました。

ATとは体の機能を助ける補助器具のことで,車椅子,補聴器,VOCA(ボカ)と呼ばれる音声出力会話補助装置,またこのようなスイッチも補助器具の一つです。

(補足)

支援機器にはさまざまなモノがあります。近年の傾向としては,iPad やタブレットPCなどの汎用品に置き換わっているといえます。小型の汎用マイコンを使ったモノも登場しています。

なお,スイッチの適合については体のことがよくわかっている理学療法士や作業療法士と一緒に取り組くむのがいいでしょう。同じでスイッチでも,使えるか使えないかは適合次第になるためです。スイッチ適合についてはこちらの情報が参考になるでしょう。

言葉を使って話すことに代わるコミュニケーション方法をAAC(拡大代替コミュニケーション)と言います。マイケルは口を動かすことでイエス,口を動かさないことでノーを表現します。そしてVOCAを使って簡単な言葉を伝えます。

このようにスイッチをブレンダー(ミキサー)につなげ,マイケルは自分のスムージーを作ります。これは彼の日課であり家での仕事になっています。また,スイッチを特別に作られた太鼓につなげ,音楽療法士と一緒に演奏することを楽しむこともできます。

(補足)

支援者(療法士や教員などの専門家を含む)は当事者の生活をよく知っていなければなりません。生活の中にすべてのヒントがあります。生活を知らなければ,何に興味があるのか・何ができたらいいのか・毎日の日課を何に設定したらいいのか,さらには家族の状況や家族の中での当事者の立場もわかりません。病院や学校では本当の姿は何もわからないものです。

リサ・ジョイ(2:59 – 4:23)

これはリサジョイ,レット症候群を持つ28歳の女性です。彼女は視線入力,つまり目を動かすことでコミュニケーションをします。

(補足)

「視線入力」とありますが,ここでは人間が視線検出器となっています。同様に,透明文字盤なども視線コミュニケーションの一種といえるでしょう。

近年は,ローコスト視線入力装置の普及が進みはじめました。ただし,視線入力装置はまだまだ未熟な機器ですので,すべての人がすぐに使えるというものではありません。きちんと使うには,支援者と当事者にそれなりの習熟や訓練が要求されます。視線入力装置の導入については以下を参考にしてみてください。

帰ってきたら,「今日はMJに会ったか」「アダムに会ったか」を聞きます。この本にある絵カードを使って「何が飲みたいか」「テレビを見るか」などを表現します。

「歯磨きはしてもらった?」

「散歩に行くか」「本を読むか」を聞いています。どちらもしたいようで,迷ってますね。絵カードを持ち替えて聞きます。散歩に行くか,本を読むか,本を読むカードをずっと見つめていますね。本を読むことに決めたようです。

他にもリサジョイは, iPad に入っている物語を読んだり,これを使ってイエス・ノーや,食べたいものを表現したりします。

(補足)

iPad のスイッチコントロール機能を使えばより客観的な意思表出方法として活用できるでしょう。スイッチを使うということはスイッチ適合が必須です。体のことがよくわかっている理学療法士や作業療法士と連携して実施しましょう。ひとりの教員だけでトライしても失敗ばかりになってしまい,子どもの意欲を奪ってしまいます。

特別支援教育での iPad 利用というとアプリやスイッチコントロール機能自体が注目されてしまいますが,実際にはスイッチ適合が何よりも重要になります。

カイ(4:24 – 5:50)

これはカイ,10歳です。カイは子供専用の施設に住んでいます。5歳の時に脳卒中になり重度の障害を負いました。脳神経の医者からは「一生人工呼吸器をつけたまま,二度と目覚めることはない」と言われました。

(補足)

専門家の見立ては,時に残酷で見事に誤ったものであったりします。子どもの脳の可塑性と回復力は予測できません。これまでの常識だけで判断することの危険性を,カイくんは身をもって証明してくれました。最近のカイくんの映像はこちら。

彼はいつも舌を噛んで口から血を流していました。その度に鎮静剤を投与されていました。ところが,本当は彼は何かを伝えたくて血が出るまで舌を噛んで人の注意を呼ぼうとしていたのです。彼の理学療法士が最初に気づくまで1年もかかりました。

(誰も彼がそれほどはっきりした意識があると信じていなかったからです。)

今ではビッグマックというVOCAを使って人を呼ぶことができるようになりました。スカイプを使って日本のおばあちゃんと歌を歌います。

今では理学療法士,作業療法士,言語療法士が一緒に働いて電動式の車椅子を持つという目標に向かって頑張っています。

(補足)

ビッグマック(VOCA機能付き)は日本でも購入できます。VOCA機能のある機器はさまざまで,iPadやタブレットPCで代用することもできます。

このように誰でも補助器具を使っておもちゃのロボットを動かしたり,活動に参加することができるのです。

次ページ「第2部 アシスティブテクノロジーと制度」

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