バニラエア奄美便での車いすユーザー這い登り事件

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これ,あまりにも気分の悪い記事なので,一言。
私自身,バリアフリーマップアプリの開発をしていますしね。

ずばり言えば,ひどく悪意に満ちており,どうしようもなくアホな記事です。
車いすユーザー側に立ったような記事に思えますが,いやいや,車いすユーザーを弱者に仕立て上げた逆差別を明記した記事にほかなりません。

もっと言えば,人の正義感を煽った低俗な記事です。
「タラップをはい上がらせる」と表現されたら,車いすユーザーがまるで奴隷のように指示されて,スタッフが腕組みしながら傍観しているように思えてしまいます。
通常業務フローの中で,そんなことが起きるはずもないのです。

飛行機に乗るときには,車いすユーザーに限らず,何らかの措置が必要なケースでは事前連絡が必須です。
いわゆる身体障害者に限らず,幼児・乳児や何かしら特殊な疾患がある場合も事前連絡をしますね。

飛行機は高空を飛ぶので,気圧が下がってしまいます。
気圧変化で疾患が悪化する可能性があるのなら,事前連絡するのは当然でしょう。
機内食が出るフライトなら,アレルギー対応食を用意してもらうため,あらかじめそのことを伝えておくのも必要です。
飛行機には余分の食材は保管できませんし,まともな調理も不可能だからです。

つまり,特別措置が必要なユーザーを差別しているのではありません。
飛行機という,(無理して)空を飛ぶという特殊な機械であることが大きな要因です。
あれだけの金属の塊が飛ぶわけですから,乗り降りの機能はやや犠牲にせざるをえません。
歩けない人の場合,乗降時にスロープ式タラップやエレベーター式タラップを使えばいいのですが,地方空港ではそれが用意できない場合もあるでしょう。

以下,各社の車いす対応について挙げてみました。
どれも事前連絡が必要ですね。

そういった事情があるというのに,この記事ではこれらのことにほとんど触れていません。
当該車いすユーザーは,予約時に事前連絡が必要であることを了承しているはずなのになぜ無視したか?」がまったくもって抜けているのです。

もちろん,バニラ・エアもきちんと規則をホームページに載せています(こちら)。

格安航空会社(LCC)であるバニラ・エアは,手続きはすべてインターネットで行い,あらゆるサービスの調達は自らで調整(有料で!)しなくてはいけません。
バニラ・エアの前身であるエア・アジアにいたっては,機内食さえも予約購入の必要があります。
なんと,10時間におよぶ国際線でもそうで,予約しておかないと何もサービスされません。
荷物の重量規制はとっても厳しく,ANAやJALなどのフルサービスキャリアに比べるまでもありません。
バニラ・エアも預け荷物は有料ですからね(車いすは無料)。

今回の事件は,フルサービスキャリアを利用していたら起きていなかったのかもしれません。
もしくは,奄美空港という日本屈指の小規模な空港でなければエレベータ式タラップが使えたのでしょう。

当該車いすユーザーは,多くの国を車いすで訪れており,国内ですし離島への旅であってもたいへん自信満々だったに違いありません。
経験に裏付けされた言葉は,きっと力強いものがあったはずですし,バニラ・エアのスタッフも押し切られたのでしょう。
もっと臨機応変に対応できたら最高だったのですが,若いスタッフが多いLCCでは難しかったのかもと想像します。

車いすユーザー「私は予約なしに世界中を旅してきましたゼ!規則は規則ですが,私は搭乗しますよ!」
スタッフ「お客さま,設備の都合上乗ることができません。申し訳ありませんm(_ _)m」

戸惑うスタッフを前にして,腕だけで階段タラップをどんどん登っていく車いすユーザー。
マニュアルを厳守しているだけなのに,目の前の衝撃の事実にドキドキが止まらないスタッフ。
きっと,そんな感じだったのではと。

それにしても,腕だけで階段を登りきったのはすごい。
これはもうコントとして語り継げはいいでしょうね。

つまるところ,奄美空港にもエレベータ式のタラップを設置しましょうということで。
当該ユーザーのワイルドな空の旅のしかたは空港スタッフが大変そうですが,いずれは車いすくらいなら当日対応できてもいいのかもしれませんね。

ニュース記事はすぐに消えてしまうので,以下に転載します。

車いす客にタラップはい上がらせる バニラ・エアが謝罪

鹿児島県奄美市の奄美空港で今月5日、格安航空会社(LCC)バニラ・エア(本社・成田空港)の関西空港行きの便を利用した半身不随で車いすの男性が、階段式のタラップを腕の力で自力で上らされる事態になっていたことがわかった。バニラ・エアは「不快にさせた」と謝罪。車いすでも搭乗できるように設備を整える。
男性は大阪府豊中市のバリアフリー研究所代表、木島英登(ひでとう)さん(44)。高校時代にラグビーの練習中に脊椎(せきつい)を損傷し、車いすで生活している。木島さんは6月3日に知人5人との旅行のため、車いすで関空に向かった。木島さんとバニラ・エアによると、搭乗便はジェット機で、関空には搭乗ブリッジがあるが、奄美空港では降機がタラップになるとして、木島さんは関空の搭乗カウンターでタラップの写真を見せられ、「歩けない人は乗れない」と言われた。木島さんは「同行者の手助けで上り下りする」と伝え、奄美では同行者が車いすの木島さんを担いで、タラップを下りた。
同5日、今度は関空行きの便に搭乗する際、バニラ・エアから業務委託されている空港職員に「往路で車いすを担いで(タラップを)下りたのは(同社の規則)違反だった」と言われた。その後、「同行者の手伝いのもと、自力で階段昇降をできるなら搭乗できる」と説明された。
同行者が往路と同様に車いすごと担ごうとしたが、空港職員が制止。木島さんは車いすを降り、階段を背にして17段のタラップの一番下の段に座り、腕の力を使って一段ずつずり上がった。空港職員が「それもだめです」と言ったが、3~4分かけて上り切ったという。
木島さんは旅行好きで158カ国を訪れ、多くの空港を利用してきたが、連絡なく車いすで行ったり、施設の整っていない空港だったりしても「歩けないことを理由に搭乗を拒否されることはなかった」と話す。
バニラ・エアはANAホールディングスの傘下で、国内線と国際線各7路線で運航する。奄美空港だけ車いすを持ち上げる施設や階段昇降機がなく、車いすを担いだり、おんぶしたりして上り下りするのは危険なので同社の規則で認めていなかったという。バニラ・エアは奄美空港でアシストストレッチャー(座った状態で運ぶ担架)を14日から使用、階段昇降機も29日から導入する。
同社の松原玲人(あきひと)人事・総務部長は「やり取りする中でお客様が自力で上ることになり、職員は見守るしかなかった。こんな形での搭乗はやるべきでなく、本意ではなかった」とし、同社は木島さんに謝罪。木島さんは「車いすでも心配なく利用できるようにしてほしい」と話している。(永井啓吾・2017年06月28日 05時11分)

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